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システムトレード トレード戦略

「大勢順張り、小勢逆張り」の方法論

相場は約3割の期間でトレンドを、また約7割の期間でレンジを形成するとされています。トレンドやレンジの定義によっても変わるでしょうが、これはまずまず実感とも合致する比率です。

この年初からの相場ですが、どのような定義であろうとも、稀に見るレベルの上昇トレンド相場だったことは疑いの余地がありません。日経225で言えば、1月中に37000円近くまで上昇するというのは、殆どの市場参加者にとって想定外だったと言えるでしょう。

さて、順張り派のトレーダーであれば、7割もの期間を占める長いレンジ相場では何とか耐えつつ、こうした強いトレンド相場においては確実に大きく取ることが必要です。しかし、かえってある程度の経験を積んでいたりすると、大半を占めるレンジ相場への適応に気が行き過ぎて、いざ最高のトレンド相場がやってきた時に多少なりとも日和ってしまい、結局最も美味しいところを逃してしまうのは珍しくないはずです。

では、どうすればトレンド相場で確実に大きく取ることが出来るのでしょうか? 天賦の才を持つトレーダーであれば、当然裁量でOKです。しかし、そのような才能に恵まれない普通のトレーダーなら、ある程度「機械的」にやることが有効になります。と言っても、必ずしもシステムトレーダーになる必要はありません。たとえば、高値からどれだけ逆行したら処分するといったトレーリングストップ注文をセット出来る証券会社も少なくありませんし、これなら確実に「上げトレンドの途中で売ってしまって後悔する」という愚は避けられます。(ただし、逆指値注文となるため、板の薄い銘柄などでは大きく値が飛ぶリスクが有ることには注意が必要です。)

システムトレーダーなら話は簡単で、システムの出す売買サインに淡々と従うのみです。ところが、システムトレーダーとて感情を持つ生身の人間であり、懐疑的になり売買サインに素直に従えないことは決して稀ではありません。特にレンジ相場が長く続き、結構な数の損切りを繰り返してきた場合、もし思いの外トレンドが続いたらどうでしょう?思わず裁量で利食いをしてしまいたいという誘惑に駆られがちですし、全部利食いをしないまでも一部は利益確定しておきたいと思ってしまうのは、ある意味、自然なことでもあります。ただ、そんな時は殆ど、後で大きく悔やむことになるのもお約束なのですが。

こうしたシステムトレーダーの永遠の悩みに対して、個人的には「解」を持っています。それは、「順張りのストラテジーと逆張りのストラテジーを併用する」というものです。と言うと、「それでは順張りトレーダーでもなければ逆張りトレーダーでもない、どっちつかずの日和見トレーダーになってしまうのでは?」と思われるかもしれません。尤もな感想だと思います。そこで大切になるのが、それぞれに掛ける比重なのです。

具体的な例を挙げると、順張りストラテジーでは二単位、逆張りストラテジーでは一単位をトレードすればどうでしょうか?トレンド相場では、順張りストラテジーが稼ぎます。その一方で、逆張りストラテジーは損を出します。しかし、前者は二単位、後者は一単位なので、トータルでは確実にプラスになります。逆にレンジ相場では、順張りストラテジーは稼げないか損を出す一方で、逆張りストラテジーは稼ぐことになります。そこではトータルでトレンド相場でのプラスを食いつぶさない程度のマイナスならOK(プラスで乗り切れるなら最高)となります。こうして、「ストラテジーのポートフォリオ」を組むことによって、トレンド相場であろうがレンジ相場であろうが、安心して機械的にトレード出来ることになるわけです。

では、個人的にどのような逆張りストラテジーを使っているかを公開します。個別銘柄ではなく、指数先物をトレードする際に使うものなのですが、実はその元になっているのは自作の「順張り」ストラテジーの中でポンコツ中のポンコツと言えるものなのです。簡単に言えば、ある程度下がったと判断すれば翌日の寄りで買い(チャート中のLE)、逆にある程度上がったと判断すれば翌日の寄りで売り(チャート中のSE)を繰り返すのですが、下図の通り、レンジ期間中は買ってやられ、売ってやられ、見事に逆指標ぶりを発揮し、損を積み重ねます。

そこで、相場格言「曲がり屋に向かえ」を発動します。つまり、このポンコツなストラテジーにおける売買シグナルを逆にして、本来買うところで売り、本来売るところで買うように変更すれば、それなりに優秀な逆張りシステムが出来上がります。(当然トレンドが出ているところではマイナスになりますが想定内。)

ちなみに、この曲がり屋に向かうストラテジー、過去170回のトレードではトータルでトントンどころかほぼ右肩上がりの損益曲線を描き、むしろ出来過ぎぐらいのパフォーマンスとなっています。これをそれなりに優秀な順張りストラテジーと合わせて運用すれば、「ストラテジーのポートフォリオ」の出来上がりです。

誤解なきよう繰り返しますが、順張りメインでシステムトレードをする場合、逆張りでも儲ける必要など全くありません。逆張りで損をする局面では順張りがしっかり機能するはずだからです。換言すれば、敢えてサブで逆張りの玉を持つ(そうなるようシステムに組み込む)理由は偏に、システム全体に対する安心感・信頼感を高め、メインである順張りの玉を維持するためなのです。

拙著では「大勢順張り、小勢逆張り」という売買手法について触れたわけですが、要は、大きなトレンドには順張りしつつ、トレンドの中で時折生じる小さなノイズには逆張りでチャンスとしていただくということです。そしてもし、それを「機械的」に実行したいのであれば、上述の通り、ある程度堅牢な順張りストラテジーと細かいノイズを拾う逆張りストラテジーを組み合わせ、ポートフォリオとして運用するのが理想的と言えます。これにより、上げトレンドが続く限り、高くなれば一部利食いし、安くなれば増し玉して、ずっとトレンドに追従出来ることになります。

システムトレーダーの中には、聖杯を求めるが如く、一つの最強のストラテジーの開発に血道を上げる向きが少なくないかと思います。(かく言う自分自身が、かつてはそうでした。)しかし、それを諦め、単体でなく「ストラテジーのポートフォリオ」で勝負するという発想に至ったなら、相場への取り組みは全く変わったものになることでしょう。

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『投資で「3億円FIRE」したぼくがすすめるたった2つのこと』を読んで

投資家ではなく生粋のトレーダーであると自認する私ですが、実は、トレードには長期投資と比べて極めて大きな弱点があると常々感じています。それは、好むと好まざるとにかかわらず、時代の流れや環境の変化に大きく左右されてしまうということです。

たとえば昭和の昔であれば、株を買う時と売る時、あわせて4%近くの手数料が掛かっていました。つまり、100万円で買った株なら104万になって初めてトントンになるということです。それが何を意味するかと言えば、「デイトレなど完全に不可能」ということです。仕手株のような銘柄に限って言えば、数日単位のスイングなら何とか可能ではありましたが、それ以外の普通の銘柄については、基本的にトレードは難しく投資を選ばざるを得ませんでした。それが最近では、信用口座の開設も昔は二桁多い資金が必要だったのが30万円もあれば可能になり、(2012年まで不可能だった)信用取引の無限回転が解禁となり、更には売買手数料も劇的に下がり無料のところまで続出するようになりました。その敷居は以前より遥かに低くなり、思い立てば誰でもトレーダーになれるという、短期トレードにとっては素晴らしい時代となったのです。

では、ここでちょっと思考実験をしてみましょう。もしもNISA拡充など長期投資を支援する姿勢が明確な金融当局が、短期トレードに対して懲罰的な税率を導入すると決定したらどうなるでしょうか? 「現状の20%強であっても厳しいのに、もし50%にもなればさすがにやっていられない」と考えるトレーダーが続出することは、火を見るよりも明らかです。また、これは既に進行中のことですが、デイトレなど超短期トレードをメインとしていたトレーダーの中に、時間軸を長めにすることを余儀なくされた人は非常に多くいます。今や地方証取の過疎銘柄にさえアルゴが蔓延っているくらいで、超短期トレードは人との戦いというよりアルゴとの戦いになっています。難易度は年々着実に上がってきているのです。更に言えば、歳を取れば取るほど反射神経や視力・集中力が鍵となる手法は辛くなるわけで、そもそも超短期トレードはずっと出来るものではないのです。

長期投資が簡単などというつもりはありません。しかし、時代の流れや環境の変化にそれほど左右されることがないという意味では、長期投資はトレードより遥かに取り組みやすいものであることだけは間違いありません。

さて、今月発売されたばかりの新刊である『投資で「3億円FIRE」したぼくがすすめるたった2つのこと』ですが、これは非常に面白いFIRE本として読むことも当然出来るものの、実際に一読してみて、個人的には「長期投資の教科書」として勧められる親切な良書だと感じました。では、長期投資の要諦とは何か? 本書のタイトルである「たった2つのこと」になぞらえ、自分なりに下記の2つにまとめてみたいと思います。

持つこと & 待つこと

まず、株を「持つこと」ですが、資本主義の世の中が続く限り、労働だけで投資をしないことの不利さが、本書の中では強調されています。その不利を背負わないために、また出来るだけ多くの経験値を積むためにも、やはり投資をするならなるべく早く始めるべきでしょう。折よく来年からは新NISAがスタートするのであり、もし株式投資を始めるべきかどうか逡巡しているような人がいれば、本書に確実に背中を押してもらえること請け合いです。では具体的にどういうものに投資すればよいかについても、当然ながらオススメが詳述されています。それを読者がそのまま模倣するかどうかは兎も角、経験豊富な長期投資家である著者の北原さんがどのような考えから投資対象を選択しているかを知ることが出来るのは、大きなメリットでしょう。

次に「待つこと」ですが、株式投資を始めている者が一体何を待つというのか?と思われるのはごもっともです。結論から言えば、待つべきものとは、後々「ショック相場」と呼ばれるような状況です。近年で言えば、リーマンショックとコロナショックがその典型なのですが、同じく株をやっていても、そこで退場となってしまった人も多くいる一方、全く逆に一世一代の好機と捉え一気呵成に資金投入することで財を成した人も少なからずいるのです。

要するに本書は、これから投資を始める人は勿論のこと、経験者であってもコロナショック後に始めたようなショック相場未経験者にとって、大暴落時においてどう対処すべきかを、生々しい心の動きまで描写した貴重な体験談として易しく教えてくれるものなのです。またショック相場経験者であっても、上手く立ち回れたと振り返られる人の割合は極めて低いはずで、北原さんが実際にどのように立ち回ったかを疑似体験出来るのは大いに価値があることでしょう。

幸か不幸か、ショック相場は、またいつか必ずやってきます。それを一切予期することなくその場になって翻弄されるのか、それとも十分な備えをした上で「待ち」、翻弄されるどころか大チャンスとして利用できるのか? その違いは必ずや投資結果として天と地ほどの差を生むことになります。本書をキッカケに、一人でも多くの「持つこと」、そして「待つこと」が出来る長期投資家が誕生することを願っています。

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『株で「1日だけ億り人」に2度なった男』を読んで

ここ数年の野球界では、大谷翔平選手の超人的な活躍が野球マンガを遥かに超えているなどと形容されるわけですが、実はトレーダーの世界では、マンガ以上にマンガ的としか言い様がない例がゴロゴロ転がっているものです。その理由ですが、檜舞台で大活躍するためには並外れた才能があった上で子供の頃から積み重ねた膨大な練習量と実戦経験が必要なスポーツとは全く違い、相場に必要なものは多少のお金だけで、それさえあれば誰でも「世界」と戦えてしまうからです。

数十万から短期間で億まで行く例もそれほど珍しいものではなく、具体例は幾らでも挙げることが出来ます。(それなりに経験を積んだ者より、むしろズブの素人がいきなり、というケースの方が多いです)。実際、株ではアベノミクス初期に、また最近では仮想通貨のトレードで、「いきなり億り人」が大勢出現しました。要するに、素晴らしく地合いのよい時期に、ある意味無謀とも言える、経験者ではとても取れないような大きなリスクを取った者が大勝利を収めるのです。換言すれば、スポーツとは全く違い、(無論レアケースではあるものの)多少の軍資金と「運」さえあれば超人的なパフォーマンスを叩き出す可能性があるのが、相場の世界なのです。

すっかり前置きが長くなりましたが、今回紹介したいのは、兄弟ともにトレーダーであるRょーへーさん(以下Rさんと略)とニートレDさん(以下Dさんと略)によるノンフィクションのマンガ本、『株で「1日だけ億り人」に2度なった男』です。複数回「億」を達成しながらその後はほぼ一文無しへと真っ逆さまに転落するというDさんのトレーダーとしての軌跡はまさに、マンガ以上にマンガ的としか言い様がないものです。それが本物のマンガになればつまらないはずもなく、お二人との付き合いも長く予めストーリーをよく知っていた自分でさえ、思わず引き込まれてしまいました。

上へ下へと大変動するハイボラな資産曲線ほど、第三者から見て刺激的でドラマチックなものはありません。(逆にジリジリと着実な右肩上がりとなる資産曲線以上につまらないものはないでしょう。)また、トレーダーとしてはDさんと全く対照的なコツコツトレーダーであるRさんとの対比が描かれているがゆえに、Dさんのジェットコースター的トレード人生がより浮き彫りになっているとも感じました。ちなみに、「あとがき」の中でも説明されていますが、Dさんの過去の実際のトレード記録は、重要な部分が今もGMOクリック証券のトレードアイランドのサイトにはっきりと残されています。あまりにも劇的すぎるパフォーマンスを残した者にはバーチャ疑惑が湧くのも無理はないのですが、このように公式な記録がある以上、疑いの余地は全くありません。

※下記URLは、トレードアイランドのDさんのページです。一番下までスクロールすると、マンガに描かれている2013~2014年当時の記録が見られます。

https://www.click-sec.com/trade/rank_user.html?uid=01c797551fa75279d472dc09736e92d1

ところで、マンガの中のDさんの資産は、何故ジェットコースターさながらの乱高下をし、結果的に栄光と挫折を繰り返すことになったのでしょうか?それはズバリ、ハイレバ集中投資、しかもそのトレード対象の多くは、人気株ゆえ一時的に流動性が高まっているとは言え本来的には流動性に乏しい新興銘柄という「超ハイリスクハイリターントレード」であったからです。それで思い出されるのは、今も現役バリバリで大活躍している有名な投資家やトレーダーにも、駆け出しの頃に限ってはかなり無謀なことをしていた人が非常に多いということです。Dさん以外の知り合いで言えば、たとえばDAIBOUCHOUさんの「信用2階建て」、あるいはwww9945さんの「シンキ大車輪(一週間無利息の消費者ローンをうまく活用した綱渡りの資金繰り)」などがすぐに浮かんできます。

なおマンガは、2015年11月、Dさんが二度目の大転落をするところで終わります。では、果たしてDさんの二度の億達成は「運」のみだったのでしょうか?結論から言えばノーです。何故なら、その後もDさんは紆余曲折ありつつも2023年の今もバリバリの専業トレーダーであり続けており、最終的にはトレーダーにとって何よりも大切な生き残り(相場に居続けること)が達成出来ているからです。それこそ奇跡的な運のよさがあれば、二度の億達成は可能かもしれませんが、やはり本物の実力がなければ専業トレーダーを10年以上も続けることなど到底不可能でしょう。

念のため付言すると、勢いと運に任せてあっという間に大金を得て「勝ち逃げ」してしまうのも素晴らしいことだと考えています。そもそも絶頂時に冷静になるのは凡人には非常に困難なもので、自分には不相応な僥倖であるとの判断のもとスパッと身を引いてしまうのは極めて合理的な行動と言えるからです。とは言え、まさにDさんがそうであるように、相場に専業としてどっぷりと浸かり続けられることは、何よりも相場を愛する者にとっては至上の喜びなのです。

このマンガは、ノウハウや手法を伝えるものではないため、それらを書籍に求める人に対しては勧めたいとは思いません。しかし、非常に手軽かつエンタメ性の高いコンテンツであることは間違いなく、経験の長短にかかわらず株(相場)が持つ魅力、そして魔力を、リアルマネーを賭けることなく疑似体験したい人にとっては打って付けと言えるでしょう。