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『世界一やさしい デイトレードの教科書 1年生』を読んで

日本の株式市場においてデイトレードが最も盛んだった時期はいつでしょうか? 2012年末から始まったアベノミクス相場は第二次デイトレブームと言うべきものではありましたが、最大のデイトレブームはやはり、2000年代初頭からの数年間と言えるでしょう。

当時、実に多くの爆発的に資産を増やすスターデイトレーダーが登場しましたが、いま現在、一体彼らのうち何人が今もデイトレで成功し続けているでしょうか?デイトレには見切りを付け長期投資に移行するなど時間軸を長くすることで生き残った人が少なからずいるのは確かです。しかし、今もなお「デイトレ専門」で生き残り続け、かつ積極的に情報発信し続けているという人は、2006年にデイトレを始めたRょーへーさんくらいではないでしょうか?

デイトレに限らず、相場の世界で一時的に爆発的な資産増加を達成する人は珍しくありません。しかし、その殆どは無謀なリスクを取ったギャンブルが成功しただけに過ぎないため、その後も長年にわたって「勝ち続ける」ことは非常に困難なのです。逆に言えば、爆発的な資産増加の可能性を敢えて捨て去った上で「生き残り」を最優先させた時にはじめて、Rょーへーさんのように勝ち続けることが可能になるのだと言えます。

デイトレは一攫千金を狙うものではなく、文字通り「日銭」を稼ぐものというのがRょーへーさんの基本思想です。そして、そんなRょーへーさんこそ、何よりも安全第一を心がけるべき初心者向けのデイトレ本を書くための適任者でしょうし、今回、それが現実に形となったのは大変喜ばしいことだと思っています。

なお、気を付けるべきことが一点あります。「日銭」を稼ぐと言えば、未経験者の方であれば特に、「一日確実に数千円」というイメージを抱くかもしれません。しかし、実態はそこまで(ある意味都合よく)平均化されるものではなく、本当に大きなチャンスが来た日には大きく勝ち、また逆に時にはマイナスを計上する日もあるというものになります。それらを均して結果的に一日数千円という収益を目指すものであるということには留意が必要でしょう。

さて、信用取引では問題にならないものの現物を売買する場合、経験の浅いトレーダーがぶつかる大きな問題の一つに差金決済があります。(ある程度の経験を積んだトレーダーであれば、差金決済のために売買できなくなってパニックに陥った経験があるのは普通でしょう。)一方、信用取引の場合には、追証の発生や空売りをして大変な目に遭う等々のリスクがあります。一年生向けの本書では、こうした諸問題について注意喚起をしています。

また、現物・信用に関わらない注意事項として、下記のような「べからず集」もしっかり書かれており、初心者には大変ありがたいものと言えるでしょう。

・危険なナンピン
・IPO直後のような値動きが激しすぎる銘柄のトレード
・最初から多額の資金を投入すること

デイトレの教科書であれば、夢だけを語るのではなく、上記のような負の側面があることをしっかりと伝えるべきであり、その意味で本書は非常に親切であると思います。

差金決済なんて当然理解している、あるいは今更上記のような「べからず集」など必要ないという初心者の域を脱しているデイトレーダーなら、敢えてこの本を読む必要はないでしょう。(同じRょーへーさんの本であれば、既刊の『初心者にもできる逆張りデイトレードの極意』やその続編である『超実践! 勝ち続けるための逆張りデイトレード』を読まれることをお勧めします。)

しかし、デイトレに強い興味を持っていたり、あるいはデイトレ初心者を自認する方であれば、最初の一歩となるガイドブックとして、本書は大いにその価値を発揮してくれることでしょう。

※初版第一刷には数点の誤植があるようです。ソーテック社サイトにある「正誤表」をご参照ください。

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相場雑感

四季報との向き合い方

これを言うと驚かれることもあるのですが、日本株投資経験は30年を遥かに超えているにもかかわらず、一度も紙版の四季報を買った経験がありません。と言うのも、かつて一部の証券会社においては、裏表紙に自社の名前が入った四季報を営業ツールとして無料で配っていた時代があったためです。(今もそういった証券会社があるかどうかは知りません。)

誤解なきよう補足すると、四季報など買う価値がないものと考えているわけでは全くありません。実際はその逆で、日本株に投資する上では、四季報ほど有用かつ重要な情報源はないと確信しています。ちなみに、紙版の四季報を買ったことこそないものの、四季報オンラインについてはサービス開始後すぐに購読を始め、不可欠な情報源の一つとしてずっと愛用し続けてきています。

さて、最新版の四季報が出る度に通読するという人は少なくないようですが、これも個人的には一度もしたことがありません。その理由ですが、概ね下記の通りとなります。

・そもそも全く興味や関心が持てなかったり苦手に感じるような業種・業界が多いこと。

・たとえ気になる業種・業界に属していたとしても、投資(トレード)する気には全くならない企業が多いこと。

結局は、三桁にすら届かない監視銘柄群を詳細かつ丁寧にウオッチし続ければ個人的には十分ということになり、四季報オンラインが更新されるたび、監視銘柄群のみチェックするようにしているのです。

ただし、四季報通読を否定しているわけではありません。通読することで思わぬお宝銘柄を多数発掘できるような可能性は大いにあるでしょうし、日本株全体を網羅的に見渡すことで初めて見えてくる景色というものも必ずやあると思われるからです。

最近では四季報通読どころか四季報写経(!)という極めてストイックな方法論まで市民権を得始めたと聞きます。四季報との向き合い方も人によって実に様々なものだと感心させられます。

「自分に合った銘柄」や、「自分に合った投資(トレード)法」を探し当てることの重要性は言うまでもありませんが、その意味では四季報のような情報源との向き合い方も全く同じ。人によって向き不向きは必ずあるもの故、試行錯誤する中で最終的に一番自分に合ったものを見つけ出していくのが肝心なのです。

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『大暴落の夜に長期投資家が考えていること』を読んで

それなりに経験を積んだ株式市場参加者であればほぼ100%経験済の失敗例として、「暴落時の狼狽売り」が挙げられると思います。自分自身を振り返っても、暴落時に投げ売りをさせられたことは少なくありません。最も悲惨だったのは、まだ電話で注文をしていた時代、前場に暴落が来たのを会社の昼休みに知って居た堪れず後場寄りで投げ売りしたら、直後に極めてポジティブなニュースが流れて後場開始から猛烈な反騰が始まったという経験です。買い直すことも出来ぬまま呆然とその後の上昇局面を見送るだけだったのは、いま振り返るとまさに「アンタが投げたソコが底」を見事に決めた痛恨の大失敗でした。

実際、昨年8月の大暴落においては、新NISAの成長投資枠利用者(うち約6割が初心者)の約4割が消極的行動(売却)をとったという結果が出たようです。興味深いのは、初心者層の約4割が消極的行動をとった一方で10年以上の経験者の消極的行動は16.7%にとどまったという事実です。経験によって暴落時の対応が明らかに異なるという結果には、自らの過去を振り返って納得する人も多いことでしょう。
※引用元:投資専門サイト「テクニカルブック」による調査に基づくForbes JAPAN Web-Newsが昨年12月26日に報じた記事

前置きが長くなりましたが、『大暴落の夜に長期投資家が考えていること』には、ろくすけさんが大暴落(リーマンショック)で資産の大きな評価損を抱えたにもかかわらず、狼狽売りなどの衝動的な行動は取らず、逆に買い向かった経験が綴られています。投資家の感情を激しく揺さぶってくる大暴落局面において、なぜ狼狽売りに走らずに済んだのか、また逆になぜ臆することなく買い向かうことが出来たのか?本書では、その秘訣が惜しみなく公開されており、大変読み応えがありました。

「株はメンタル(が大事)」とよく言われますが、実際暴騰局面では欲望から高値づかみし、暴落局面では恐怖から狼狽売りをしてしまうというのが、一般大衆が取ってしまいがちな行動パターンです。そんなことをしていたら幾らおカネがあっても足りないほど損を積み重ねてしまうはずであり、またこの事こそが、いつの世も株式市場に参入する人は多かれど、長年にわたって生き残り、かつ資産を積み上げ続けられる人が非常に少ない理由です。逆に言えば、そうした感情や本能といったものを制御することが成功の大前提となります。そして、大暴落などは当然に想定した上で、予めそうした事態に遭遇したらどう行動するか(「何も行動しない」という選択もアリ)を決めておくくらいになれたのなら、長期投資家としての成功は一気に近づくことになるでしょう。

また、長期投資の鉄則として以下のように書かれていたのは、非常に新鮮に感じられました。

長期投資においては、「買値」「含み益」「含み損」は、投資判断の要素からは外すべきです。大事なのは、常に今です。投資している企業をどう評価するかを「今」判断する。これが鉄則です。

※『大暴落の夜に長期投資家が考えていること』140ページより引用

これには補足があり、含み益が出ているのも含み損が出ているのも、買値という「過去の痕跡」がもたらすものに過ぎないという内容が続きます。従って、たとえ大きな含み益があったとしても、それは「過去の判断」が素晴らしかったことを示しているだけで「将来」を保証するものではなく、含み益の大きさと「今」の企業の価値・実力は別物、とろくすけさんは説いています。トレーダーにとっては「今(≒現実)」から目を背けるのが致命的になるのは理の当然ですが、凄腕の長期投資家もやはり「今」こそが全てと考えていることを知れたのは大変興味深かったです。

長年にわたって生き残り成果を上げ続けてきた長期投資家の手になる本書は、その他にも様々な金言に満ち溢れています。長期投資家は勿論のこと、トレーダーにとっても大いに有益な良書として推薦させていただきます。