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相場雑感

四季報との向き合い方

これを言うと驚かれることもあるのですが、日本株投資経験は30年を遥かに超えているにもかかわらず、一度も紙版の四季報を買った経験がありません。と言うのも、かつて一部の証券会社においては、裏表紙に自社の名前が入った四季報を営業ツールとして無料で配っていた時代があったためです。(今もそういった証券会社があるかどうかは知りません。)

誤解なきよう補足すると、四季報など買う価値がないものと考えているわけでは全くありません。実際はその逆で、日本株に投資する上では、四季報ほど有用かつ重要な情報源はないと確信しています。ちなみに、紙版の四季報を買ったことこそないものの、四季報オンラインについてはサービス開始後すぐに購読を始め、不可欠な情報源の一つとしてずっと愛用し続けてきています。

さて、最新版の四季報が出る度に通読するという人は少なくないようですが、これも個人的には一度もしたことがありません。その理由ですが、概ね下記の通りとなります。

・そもそも全く興味や関心が持てなかったり苦手に感じるような業種・業界が多いこと。

・たとえ気になる業種・業界に属していたとしても、投資(トレード)する気には全くならない企業が多いこと。

結局は、三桁にすら届かない監視銘柄群を詳細かつ丁寧にウオッチし続ければ個人的には十分ということになり、四季報オンラインが更新されるたび、監視銘柄群のみチェックするようにしているのです。

ただし、四季報通読を否定しているわけではありません。通読することで思わぬお宝銘柄を多数発掘できるような可能性は大いにあるでしょうし、日本株全体を網羅的に見渡すことで初めて見えてくる景色というものも必ずやあると思われるからです。

最近では四季報通読どころか四季報写経(!)という極めてストイックな方法論まで市民権を得始めたと聞きます。四季報との向き合い方も人によって実に様々なものだと感心させられます。

「自分に合った銘柄」や、「自分に合った投資(トレード)法」を探し当てることの重要性は言うまでもありませんが、その意味では四季報のような情報源との向き合い方も全く同じ。人によって向き不向きは必ずあるもの故、試行錯誤する中で最終的に一番自分に合ったものを見つけ出していくのが肝心なのです。

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「木」と「森」を見るだけでは不十分

TradingViewの長所の一つとして、銘柄間や指数間、更には銘柄と指数の間の比較が容易であることが挙げられます。前回の記事では、指数間の比較の例としてTOPIXバリューとTOPIXグロースの相対チャートを提示したわけですが、今回は各業種と全体との比較をしてみます。

と言っても、また相対チャートを使うのでは芸がないので、今回は「オリジナル指数」をご覧に入れることにします。下の二つのチャートは何れも「東証一部業種別株価指数」を「TOPIX」で割って算出した指数の直近一年間のチャートなのですが、上段は「海運業」、下段は「空運業」です。

このようにちょっと加工することで、それぞれの業種が全体相場との比較で強いか弱いかが明確に可視化されることになります。そして、言うまでもありませんが、いまどの業種に資金が集まっているか(どの業種から資金が抜けているか)も一目瞭然となるのです。(全体相場が上がっているにもかかわらず冴えない業種が現れることもあれば、逆に全体相場が下げ基調でも堅調な業種が現れることもあります。)

投資家もトレーダーも、経験が浅い内はどうしても「木(個別銘柄)」ばかりに目が行って、後はせいぜい日経225・TOPIX・マザーズ指数・ジャスダック指数等を見て「森(全体相場)」の確認をする程度になりがちです。しかし、株式市場の場合、「森」と言っても実に広大であって、決してひと括りには出来ないものなのです。

現在の資金の向かい先がグロースなのかバリューなのか、またどの業種が買われて(売られて)いるのか等々、常に様々な角度から「森」を観察してみることをお勧めします。

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何をもって全体相場と見るべきか?

今日TOPIXが、1991年以来29年10ヶ月ぶりの高値を取ってきました。更に、TOPIXバリュー指数は、終値ベースで約2年半ぶりに2000の大台を上回ることになりました。今や「全体相場」が強いということに異論を唱える向きはいないでしょう。

しかし、果たして「全体相場」とは何を指すのでしょうか? 東証一部の全銘柄の時価総額を基準時価総額で割って算出するTOPIXは、「全体相場」の温度感を知る上でかなり有用な指数であることは間違いありません。しかし、ひと口にTOPIXと言っても超大型株から超小型株まで幅広いですし、また様々な業種が混在しているわけですから、それらを十把一絡げに見てしまうことで逆に見えにくくなる部分は当然出てきてしまいます。

さて、下図は、TradingViewで下記3つの指数を相対チャートとして表示させたものになります。(2020年11月4日を起点とし、本日までのそれぞれの騰落率を比較しています。)

・青:TOPIXバリュー

・紫:TOPIX(全体)

・黒:TOPIXグロース

最初の3ヶ月弱はほぼ同様の動きをしていたものの、1月末のボトムから急に大きく乖離し始めたのが一目瞭然かと思います。その結果、全期間を通じては、TOPIXバリューが約29%の上昇に対し、TOPIXグロースは半分以下の約13.5%の上昇ということで、両者の勢いが全く違っていたことが明白ですが、これは「このところグロースに対してバリューが圧倒的に優勢であった」という各トレーダーの肌感覚ともきっと整合していることでしょう。

要するに、TOPIX全体を見ていては決して分からない差異が、何らかの基準である程度は細かく分類することにより、全く別物として浮かび上がってくることになるのです。実際に東証は、33の業種別株価指数、また様々な規模別株指数をはじめとして、実に多くの数の株価指数を日々公表しているのですが、それらをこまめにチェックしていない限り、「いま具体的にどこに資金が向かっているのか?」が見えてきません。

念の為に補足しますが、高成長なのに割安、つまりグロースにしてバリューという銘柄も、低成長なのに割高な(グロースでもバリューでもない)銘柄も、現実には一定数存在していることは間違いありません。

ただ、それを言ってしまうと、独自に銘柄を選定した上でそれらの値動きを日々記録していかなければならず、大変な労力が掛かってします。せっかく東証が日々様々な切り分け方で数多くの指数を公表してくれているのです。それらを利用しない手はないでしょう。

ちなみに、TOPIXグロースとTOPIXバリューの振り分けは、実はPBRのみでなされています。定期入替えのタイミングでTOPIX構成銘柄を連結PBRの高低で3つにグループ分けし、PBR上位3分の1をグロース、PBR下位3分の1をバリューに分類しているのです。

ところで、2022年4月4日には、東証の市場改革により、現行の「市場第一部」、「市場第二部」、「マザーズ」、「ジャスダック」の4市場区分が、「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3市場区分へ移行することになっています。これに伴い、早速2022年4月には東証第二部株価指数やジャスダック指数等が、また翌2023年4月にはマザーズ指数等が廃止となることが確定的です。

これまで新興市場の「全体相場」を見る上で大変有用であった代表的指数(二部指数、ジャスダック指数、マザーズ指数)が全て廃止ということになれば、来年以降は必然的に他の指数を見るほかありません。データの継続性という観点からは、今のうちからそういった他の指数もチェックしておいた方がよいでしょう。そして、「全体相場」を見るためにどの指数に着目すべきか考えることは、今や各トレーダーにとって喫緊の課題なのです。

(※追記:2021年3月26日、東証は2022年4月以降もマザーズ指数の算出を続ける案を発表しました。これにより、マザーズ指数は存続し続ける可能性が高くなりました。一方、ジャスダック指数については、廃止の方針に変わりがなさそうです。)