『投資で「3億円FIRE」したぼくがすすめるたった2つのこと』を読んで

投資家ではなく生粋のトレーダーであると自認する私ですが、実は、トレードには長期投資と比べて極めて大きな弱点があると常々感じています。それは、好むと好まざるとにかかわらず、時代の流れや環境の変化に大きく左右されてしまうということです。

たとえば昭和の昔であれば、株を買う時と売る時、あわせて4%近くの手数料が掛かっていました。つまり、100万円で買った株なら104万になって初めてトントンになるということです。それが何を意味するかと言えば、「デイトレなど完全に不可能」ということです。仕手株のような銘柄に限って言えば、数日単位のスイングなら何とか可能ではありましたが、それ以外の普通の銘柄については、基本的にトレードは難しく投資を選ばざるを得ませんでした。それが最近では、信用口座の開設も昔は二桁多い資金が必要だったのが30万円もあれば可能になり、(2012年まで不可能だった)信用取引の無限回転が解禁となり、更には売買手数料も劇的に下がり無料のところまで続出するようになりました。その敷居は以前より遥かに低くなり、思い立てば誰でもトレーダーになれるという、短期トレードにとっては素晴らしい時代となったのです。

では、ここでちょっと思考実験をしてみましょう。もしもNISA拡充など長期投資を支援する姿勢が明確な金融当局が、短期トレードに対して懲罰的な税率を導入すると決定したらどうなるでしょうか? 「現状の20%強であっても厳しいのに、もし50%にもなればさすがにやっていられない」と考えるトレーダーが続出することは、火を見るよりも明らかです。また、これは既に進行中のことですが、デイトレなど超短期トレードをメインとしていたトレーダーの中に、時間軸を長めにすることを余儀なくされた人は非常に多くいます。今や地方証取の過疎銘柄にさえアルゴが蔓延っているくらいで、超短期トレードは人との戦いというよりアルゴとの戦いになっています。難易度は年々着実に上がってきているのです。更に言えば、歳を取れば取るほど反射神経や視力・集中力が鍵となる手法は辛くなるわけで、そもそも超短期トレードはずっと出来るものではないのです。

長期投資が簡単などというつもりはありません。しかし、時代の流れや環境の変化にそれほど左右されることがないという意味では、長期投資はトレードより遥かに取り組みやすいものであることだけは間違いありません。

さて、今月発売されたばかりの新刊である『投資で「3億円FIRE」したぼくがすすめるたった2つのこと』ですが、これは非常に面白いFIRE本として読むことも当然出来るものの、実際に一読してみて、個人的には「長期投資の教科書」として勧められる親切な良書だと感じました。では、長期投資の要諦とは何か? 本書のタイトルである「たった2つのこと」になぞらえ、自分なりに下記の2つにまとめてみたいと思います。

持つこと & 待つこと

まず、株を「持つこと」ですが、資本主義の世の中が続く限り、労働だけで投資をしないことの不利さが、本書の中では強調されています。その不利を背負わないために、また出来るだけ多くの経験値を積むためにも、やはり投資をするならなるべく早く始めるべきでしょう。折よく来年からは新NISAがスタートするのであり、もし株式投資を始めるべきかどうか逡巡しているような人がいれば、本書に確実に背中を押してもらえること請け合いです。では具体的にどういうものに投資すればよいかについても、当然ながらオススメが詳述されています。それを読者がそのまま模倣するかどうかは兎も角、経験豊富な長期投資家である著者の北原さんがどのような考えから投資対象を選択しているかを知ることが出来るのは、大きなメリットでしょう。

次に「待つこと」ですが、株式投資を始めている者が一体何を待つというのか?と思われるのはごもっともです。結論から言えば、待つべきものとは、後々「ショック相場」と呼ばれるような状況です。近年で言えば、リーマンショックとコロナショックがその典型なのですが、同じく株をやっていても、そこで退場となってしまった人も多くいる一方、全く逆に一世一代の好機と捉え一気呵成に資金投入することで財を成した人も少なからずいるのです。

要するに本書は、これから投資を始める人は勿論のこと、経験者であってもコロナショック後に始めたようなショック相場未経験者にとって、大暴落時においてどう対処すべきかを、生々しい心の動きまで描写した貴重な体験談として易しく教えてくれるものなのです。またショック相場経験者であっても、上手く立ち回れたと振り返られる人の割合は極めて低いはずで、北原さんが実際にどのように立ち回ったかを疑似体験出来るのは大いに価値があることでしょう。

幸か不幸か、ショック相場は、またいつか必ずやってきます。それを一切予期することなくその場になって翻弄されるのか、それとも十分な備えをした上で「待ち」、翻弄されるどころか大チャンスとして利用できるのか? その違いは必ずや投資結果として天と地ほどの差を生むことになります。本書をキッカケに、一人でも多くの「持つこと」、そして「待つこと」が出来る長期投資家が誕生することを願っています。

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