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専業トレーダーのサバイバル法

パンローリング社長の後藤康徳氏の言葉に、下記のような印象的なものがあります。

プロの投資家の基本スタイルは、あくまでサバイバル、生き残ることを第一にしています。そしてアクションとしては「有利なほう」に動くというよりも「不利でないほう」へポジションをとります。普通の人からみると臆病なイメージをうけるかもしれません。

プロは自分が「とれる」と判断した部分は、貪欲に狙いますが、チャンスが来なければひたすら待ちます。やってみると夢も希望もない退屈な日々が続きます。なぜこんなことをするのかというと、これなら馬鹿でも生き残れるからです。そのことを理解し本当に実行しているのですから、実は逆に相場師はおそろしく頭がいいのかもしれません。

※同友館刊『成功する投資家のための絶対のパソコン投資術より引用

最後の一文の当否は措くとして、専業の投資家やトレーダーには、そうでない人たちが想像しているよりも遥かに臆病で地味なタイプが多いのは間違いないところです。

では、なぜ一般的には逆のイメージが持たれがちなのかと言えば、SNSをはじめ、やたら声が大きかったり、あるいは身の丈に合わないリスクを取りに行っている人ばかりが、どうしても目に飛び込んできてしまうからでしょう。しかし実際には、そうした人たちは文字通り氷山の一角であって、全く目立たない(目立とうとしない)実力者は世の中にごまんと存在しているのです。

伝説のトレーダー、ラリー・ウィリアムズ氏は、インタビュー(『マーケットの魔術師 システムトレーダー編』に収録)の中で、このように述べています。

トレードで生活できるようになりたいという声をよく聞きます。素晴らしいことです。しかし、生活していくためにはいくら必要なのでしょうか。年に五万ドルの収入を得たいと思ったら、その現実的な方法を何か考えなくてはなりません。もしあるファンドが一貫して年に二〇~三〇%の成果を上げたら、とても素晴らしいとみなされます。ある年に六〇%儲けて次の年に二〇%損することもあるでしょうが、もし優秀なら平均値で二〇~三〇%という数字を出せるでしょう。

だから、その彼が五万ドル稼ぎたいと思ったら、最初の資金として一五万ドルほどが必要になります。それに、それでもリスクは付きまとうのです。投入資金に対して、三三%の収益率といったら、驚異的な数字です。

現実を見れば、その数字はもっと下げる必要があります。

(中略)

私たちが耳にする素晴らしい話は全部、小さな資金から出発した人の話です。けれど、もっとよく聞くのは、大きな資金から始めて、それを小さくして終わった人たちの話です。

※パンローリング刊『 マーケットの魔術師 システムトレーダー編 より引用

ラリー・ウィリアムズ氏は、1987年のロビンスカップ(世界数十カ国のトレーダーが競い合うリアルマネーによるトレードコンテスト)で1万ドルを年末までに110万ドルに爆増させて圧倒的な優勝を収めたトレーダーです。そんな氏が 上記のような言葉を口にするのには意外感を感じる向きも少なくないことでしょう。

しかし、彼が誰にも真似できなような離れ業を演じられたのは、リアルマネーとは言え、失っても問題ないコンテスト用の口座資金だったからです。普段はそんな無謀なリスクを取るはずがないですし、だからこそ、伝説のトレーダーとして、その後も素晴らしいキャリアを積み上げてこられたのです。

一点だけ補足しておくと、株のデイトレーダーの場合は、100~300万円程度しか口座に入金していないのにもかかわらず、長年専業として勝ち(生き残り)続けているケースは意外に珍しくなく、実際にそうしている人を何人か知ってもいます。その場合は年間収益率は数百%にも及ぶわけで、20~30%稼ぎ続けることが出来れば超優秀というラリーの定義は、あらゆるスタイルのトレーダーに当てはまるというわけではありません。

とは言え、専業デイトレーダーを除けば、そのあたりの収益率を長年にわたって保ち続けるが至難の業であることは確かです。またそのためには、後藤氏の言葉どおり、「馬鹿でも生き残れるようなやり方」を愚直に続けていくことこそが、一番確実でしょう。

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資産曲線がすべて

典型的な損大利小トレーダーは、迅速な損切りが出来ず、日々膨らみ続けるマイナスに耐えきれなくなって初めて損切りに踏み切る決心をするものです。しかし多くの場合、今後の展望も見えないまま含み損銘柄を保有し続けるのは自殺行為であると少なくとも頭では分かっているもので、損切りを躊躇わせるのは単純に心理の問題です。

当然ながら、そのままでいればいつかはマイナスがプラスになって、トレードを無事利食いで終えられる可能性はあります。そして、その可能性が0.1%でもある以上それに掛けてみたいという気持ちは、痛いほど理解できます。しかし、こうしたトレーダーにアドバイスするなら、今後思った通りに動いてくれる可能性が極めて小さいのであれば、より有望な銘柄に乗り換えた方がよいのでは?というものになります。

そもそもトレーダーは何のためにトレードをするのでしょうか? トレードで稼ぎたい(資産を増大させたい)というものが根本にあるはずでしょう。であれば、都度そのための最善手を打ち続けることが最重要ということになります。マイナスが膨らむ一方であるような銘柄に拘るくらいなら、それよりも有望な銘柄は山ほどあるでしょうから、さっさと損切りして乗り換えるべきでしょう。

勝率を高めたいとか、目先の勝敗に拘りたいといった気持ちを全否定するものではありません。しかし、稼ぐこと(資産増大)が最終目的である以上、勝率や目先の勝敗といったものは、遥かに低次の目的であることは認識されるべきでしょう。また、本来あるべき優先順位が真の意味で理解できた暁には、そうした低次の目的に拘る気持ちは一気に薄れていくことでしょう。

複数の証券会社のみならず、銀行、カード会社等々、あらゆる金融機関にある各人の金融資産をひと目で見られるアグリゲーションサービスというものがあります。具体的には、マネーフォワードやマネーツリー等が有名で、証券特化型であれば株iew (カビュウ)が多くのユーザーを集めているわけですが、多くの証券会社を使っているトレーダーであれば、これらを利用することを推奨したいと思います。と言うのも、資産総額の推移(資産曲線)がひと目で分かるようにするためには、アグリゲーションサービスほど便利なものはないからです。

言うまでもないことですが、損切りをしても含み損が確定損に変わるだけで、資産総額が減ることはありません。もっと正確に言えば、確定損となった瞬間、それなりに大きな損切りであったなら多額の税金が戻ってきてむしろ資産が増えることにもなるのです。

含み損を確定損に変えたところで実質的な資産が減ることは決してない。このことさえ理解できれば、精神的ストレスを抱えつつ含み損を膨らまし続けるような愚を犯すことはなくなることでしょう。また逆に、含み損を膨らませるような銘柄を素早く切る習慣が定着したなら、自ずと資産は増えていくことになるのです。

損小利大のためには、決して際限のない含み損増大に目を瞑ってしまうべきではありません。とにかく資産曲線を右肩上がりにしていくこと。これに集中しさえすればよいのです。

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投資家とトレーダー

銘柄A:既に誰の目にも明らかな割高さながら一週間後には高確率で20%程度の上昇が見込めそう。

銘柄B:前から狙っていた割安優良株が急落で更に割安になったが、一週間後に水準訂正が起こる可能性は殆どなさそう。

上記のように対照的な二銘柄があった場合、トレーダータイプであれば間違いなく銘柄Aを買いにいくことでしょう。一方、投資家タイプはどうでしょう? 私自身は紛れもないトレーダータイプなので想像でしかないのですが、恐らく意見は二つに割れるのではないでしょうか? 

短期的な値上がりには興味がなく、あくまでも自らが厳選した優良銘柄で勝負したいという拘りを持つ投資家であれば、銘柄Bを選ぶかも知れません。一方、本質的には長期的な視点からじっくり株を持ちたいと思いつつも「落ちているお金」は積極的に拾いたいため、このケースでは敢えて銘柄Aを選ぶという人もきっといることでしょう。敢えて分類すれば、前者は生粋の(長期)投資家、後者は投資家兼トレーダーといったところでしょうか。

著書『順張りスイングトレードの極意』においては、(重なる部分もあるし明確に区分け出来はしないものの)投資家とトレーダーの二つのタイプがあると書きました。また私自身は、紛れもないトレーダーです。では、株式市場に参加している人々の割合はどうかと言えば、自身が意識しているいないかは別にして、実際には、明確に投資家ともトレーダーとも分けられない投資家兼トレーダータイプの比率が結構高いように見受けられます。

では、結局一体どのタイプがいいのか、あるいは悪いのか? 結論から言えば、どれがいいとか悪いといったことは全くなくて、各人が好きなタイプを目指せばよいのだと、私は心の底から思っています。目の前に落ちているお金をしっかり拾いに行くのは経済合理性に適うことですし、一方で敢えてそうしない(だけの精神的・金銭的余裕がある)のも素晴らしいことだと思えるからです。

たとえば同じトレーダーであっても、場が開いている間は片時たりとも相場から目を離さないというタイプもいれば、ゴールデンタイムである寄り付き直後と引け直前くらいしか取引せず残りの時間帯は殆ど場を見ないというタイプもいます。前者を褒めれば真面目かつ熱心でよいということになるし、後者は後者で時間の使い方が効率的(相場だけに時間を使わず人生を楽しんでいる)といった褒め方も出来るでしょう。

結局のところ、「みんなちがって、みんないい」ということになります。相場への取り組み方は人それぞれでよいのです。そして、全く別の取り組み方をしている人たちを非難したり排撃したりすることはお門違いも甚だしく、絶対にすべきではないと言えるでしょう。